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2024年度 海陽中等教育学校・特別給費過去問【理科】大問2解説

問題PDF
 生物の形をあつかう学問分野を形態学といいます。形態学は、生物の形の見た目について研究する生物学の分野の一つで、生物の身体から体内の器官や組織、細胞の内部にいたるまで、対象は大小様々です。
 動物の形態を決定づけるのは、骨格です。動物は、骨格を身体の外側にもつ外骨格生物と、内側にもつ内骨格生物に分けられます。私たちヒトはリン酸カルシウムを主成分とする骨が内側から体を支えている内骨格生物です。セキツイ動物の骨は、骨をつくる細胞やけずる細胞のはたらきによって成長します。基本的に、動物の骨の成長は相似成長です。相似成長とは、元の形を保ったまま、大きさだけが大きくなることをいいます。

問1
次の文章の①~③にあてはまる値または語を、それぞれ下の中から1つ選びなさい。

 小さい動物Aと大きい動物Bを想定してみます。動物Aに比べて動物Bの大きさは、たて、よこ、奥行きのそれぞれが4倍の大きさであるとすると、重さは( ① )倍になるはずです。
 動物Bの重さをささえようとすると、動物Aの骨の断面積よりも( ① )倍にならなければなりません。よって、骨の断面が円形だと仮定して、動物Bの骨の半径は動物Aよりも( ② )倍大きくなります。
この関係から、動物は大きくなるにつれて骨の長さに対して太さの比率が( ③ )なるはずです。

ア:2 イ:4 ウ:8 エ:16 オ:32 カ:64 キ:大きく ク:小さく

問2
相似成長について、より深く考えていきましょう。ここに粘土でできた小さいドーナツがあるとします。このドーナツを相似成長させたい場合、粘土を外側に付け加える(付加)だけではなく、内側の粘土をけずる(吸収)ことが必要です(図1)。このように、相似成長はものの形によって吸収されることも必要です。
ここでは、下あごの骨(下顎骨かがくこつ)の相似成長を考えてみましょう。下顎骨の場合、根元で上あごの骨(上顎骨じょうがくこつ)と接しているため、図2の①~④の部位でしか骨の付加や吸収が起こりません。図2から、どの部位に骨が付加され、どの部位の骨が吸収されるでしょうか。図2中の①~④の部位について、骨が付加される場合は+、吸収される場合は-と答えなさい。

問3
外骨格生物は内骨格生物と異なり、成長するために脱皮をする必要があります。
それはなぜか、説明しなさい。


 貝殻にはアサリなどの二枚貝やカタツムリなどの巻き貝といったように、さまざまな形が存在します。カタツムリのような巻き貝はどうやったらできるでしょうか。コンピュータシミュレーションによって、貝殻の形成について考えていきましょう。
 巻き貝の場合、単純に考えるなら、図3のような手順で作れるはずです。
 まず、円すいを用意します。次に、これを巻くとアンモナイトのような形になります。
この頂点(殻頂かくちょう)をとがらせれば、カタツムリの殻の完成です。

 今回、コンピュータ上で貝殻の形を再現するモデルを考えるために、3つの要素を設定しました。それぞれの要素は数字で表され、自由に変化させられるものとします。それぞれを図4に示します。要素はそれぞれ、巻きのゆるさ、殻の幅の広がり具合、殻頂のとがり具合とします。
 巻きのゆるさ、殻の幅の広がり具合、殻頂のとがり具合の3つの要素について、よりくわしく考えてみましょう。巻きの中心を中心軸(図5)とよぶことにします。各要素を、次のように置きかえてみましょう。
・巻のゆるさ    :半周で中心軸と開口部の中心がはなれる割合
・殻の幅の広がり具合:半周で開口部の直径が大きくなる割合
・殻頂のとがり具合 :半周で三角すいの頂点と開口部の中心がはなれる割合

問4
図4の3つの要素について、次の問いに答えなさい。
(1)図6において、①巻きのゆるさ、②殻の幅の広がり具合、③殻頂のとがり具合を、それぞれ図の数値を使って求めなさい。割り切れない場合は、小数第2位を四捨五入し、小数第1位まで答えなさい。なお、単位はすべてmmです。

(2)図7はサザエをスケッチしたもので、灰色にぬられた部分は開口部です。①巻きのゆるさ、②殻の幅の広がり具合、③殻頂のとがり具合をそれぞれ求めなさい。割り切れない場合は、小数第2位を四捨五入し、小数第1位まで答えなさい。方眼の1目盛りは2mmで、殻の厚さは考えません。


問5
図8は異常巻き型アンモナイトとして有名な、ニッポニテスの化石のスケッチです。このような形は、今まで考えてきたモデルでは再現できません。
これまで考えてきたモデルを、モデル①とします。実際の巻き貝は、開口部に石灰成分を付け足すことで成長します。この特徴を元にした新しいモデル②を考えました。モデル②で設定する要素は、
・成長するときの開口部の拡大率
・開口部の形
・開口部が成長する向き
の3つとします。モデル②は、開口部に対してどのように石灰成分をつけ足すか、というモデルのため、ニッポニテスなどの成長途中で開口部の方向が変わる場合でも説明できそうです。

 モデル②の3つの要素のうち、1つを操作するだけで、図7のサザエの殻がもつとげについても再現できます。どの要素をどのように操作すればよいか、説明しなさい。


@解説@
問1:①カ、②ウ、③キ
①動物→3次元→立方体を想定する

立方体の1辺を4倍すると、体積(≒重さ)は4×4×4=64倍になる。
②骨の断面積を64倍する。
円の面積は〔半径×半径〕に比例するので、半径を8倍すればいい。
③体積が64倍になると、骨の長さは4倍、骨の太さ(断面積)は64倍。
骨の太さは長さに対して大きくなる(太さは長さの2乗に比例する)。

問2:①-、②+、③-、④+

乳歯は上下10本ずつ、永久歯は上下14~16本ずつと大人の方が歯が多い
歯の本数を増やすには奥歯のさらに奥にスペースをつくる必要があるので①は吸収(-)
下顎骨が太くなるから①よりも速いペースで④は付加(+)
①-④+ということは下顎骨は右側へ相似に拡大していく。
谷間も右にいくので②は付加(+)、③は吸収(-)

問3:身体の外側にある外骨格は、その周囲に骨を付加することが難しいので、
身体を大きくするには古い外骨格を脱ぎ捨てる必要があるから。
*図1のようにドーナツを相似成長するには、外周部分に多くの付加が求められる。
しかし、外骨格は身体の外側にあるので、その周囲に骨を付け加えることが難しい。
後ろの設問にある貝類のように、外骨格(貝殻)の一部を少しずつ足していく手法はあるが、
基本的に外骨格そのものを大きくすることはできず、硬さゆえ形も変えられないので、
成長するには脱皮で古い外骨格を脱ぎ捨てる。

@脱皮でなぜ大きくなれるか@
脱皮前は外骨格に収納されていた新しい身体は、外骨格より小さいサイズであるはずなのに、
どうして脱皮で大きくなれるのか?

白浜水族館より。脱皮の直前に細胞が縦長に分裂→脱皮後に細胞が横長に変わるようです。
新しい殻は柔らかいため、個体の外周が長くなって一回り大きくなります。

@巨大化しにくい外骨格生物@
外骨格といえば無脊椎動物の節足動物
バッタ、トンボといった昆虫類
カニ、エビ、ダンゴムシ、ミジンコといった甲殻類
クモやムカデをまとめて節足動物という。
水中に住むカニやエビは水の浮力を受けてある程度大きい種もいるが、
全生物種のなかで最も多様な昆虫類は、人間の手のひらに乗るサイズがほとんどである。

昆虫が大きくなれない理由の1つが外骨格といわれている。
外骨格生物は成長に脱皮を繰り返さなくてはならない。
脱皮は大きなエネルギーを消耗し、新しい殻が固まるまでに身体が傷つくこともある。
脱皮の回数が増すほど失敗しやすくなり、死んでしまうこともしばしば。。
もう1つは呼吸システムの不備。
昆虫は気門から酸素を取り込むが、各細胞に酸素を運搬する循環器が十分ではない。

3億2000年前(古生代石炭紀)ではメガネウラという昆虫がいた。
全長7
0cm前後。厳密にいうと、現代のトンボとは少し違う系統に属するらしい。
メガネウラが大型昆虫になれたのは、当時の地球環境は酸素濃度が高かったからだといわれる。


問4(1)①1.7、②1.7、③1.8

①巻のゆるさ…半周で中心軸と開口部の中心がはなれる割合
 中心軸から”離れる割合”だから、上を基準に下がどれほど離れているか。20÷12≒1.7倍
②殻の幅の広がり具合…半周で開口部の直径が大きくなる割合
 殻の円の半径をみる。15÷9≒1.7倍
③殻頂のとがり具合…半周で三角すいの頂点と開口部の中心がはなれる割合
 高さをみる。45÷25=1.8倍

(2)解答例①1.7、②1.4、③1.6
面白い問題だが、許容範囲に難がある(;´・ω・)
図から具体的な数値を拾っていく。

開口部の輪郭ははっきりしているが、半周前がどうなっているのか不明。。
ひねりのアウトラインより1マス程度内側にあるのではないかと推測しました。
①巻のゆるさ…25÷15≒1.7倍
②殻の幅の広がり具合…15÷11≒1.4倍
③殻頂のとがり具合…61÷37≒1.6倍

問5:開口部の形を貝が巻く方向の外側に突起物ができるように変える。
*巻貝は『開口部に石灰成分を付け足すことで成長』する。

図3を思い出そう。始まりは円錐。
円錐をどのように巻くかで、いろいろな巻貝ができる。
円錐の底面が開口部で、そこに石灰成分(炭酸カルシウム)を付加して貝殻は大きくなる

モデル②の『開口部の形』『開口部が成長する向き』はわかりやすいが、
『成長するときの開口部の拡大率』がわかりづらい…。

おそらくですが、モデル①の『殻の幅の広がり具合』と同じとみなしていいと思います。
モデル①は実物の貝(結果)を計測するモデルだが、モデル②は開口部に着目したモデル。
実際は開口部での付加の仕方で成長が決定されるので、
殻の広がりを開口部で引き直すとこのような言い回しになると考えられます。
(巻きにひねりが加わると、断面の円の半径が一定割合で変わるのだと思う…)
では、3つの要素のうち、どれをどういじればサザエのトゲが作れるか。
→開口部の縁に新しい部分ができあがるので、円錐を長くするほかに突起物ができるように形を変えればいい。

@ニッポニテス@

wikiより、国立科学博物館の展示。
異常巻きアンモナイトで知られるニッポニテス。北海道で発見された当初は、異質な巻き方から何かしらの異常事態が引き起こした結果ではないかと疑われましたが、同様の巻貝が複数見つかったことで1つの形態と認められました。動物の腸のように複雑な形ですが、1988年に岡本隆博士が成長管モデルという新しいモデルを提唱したことで、ニッポニテスの形成過程を数式で表せるようになったそうです。

国立科学博物館に詳しい説明があります。
ニッポニテスは巻き方をうまく切り替えながら、全体の姿勢を整えようとします。成長方向には適正な範囲があって、極端になりすぎるとそれを戻そうと巻き方を周期的に変更します。左図はコンピューターシミュレーションで成長方向を波形で表したグラフで、上限や下限に差し掛かると向きが変わります。右図は上限と下限の設定値を変更した場合のニッポニテスの形態です。値を少し変えると異なる巻き方をしますが、下限に小さな値を設定すると竜巻型の巻貝になり、上限に大きな値を設定するといずれも平面上の巻き貝になります。このように、一見複雑な形態でも条件を少し変えただけでさまざまな貝が出来上がります

@@@
こちらのページでいろんな貝を簡易的にシミュレーションできます。
(処理が重い場合はShow Opening Ringsにチェック)
Growth…成長度合い
Bending Angle…曲げる角度(中央が直線、左右で左回り・右回り)
Twisting Angle…ひねりの角度(中央が0°、直線だと変化しない。Bendすると立体にうねる)
Cone Hight…高さ
Cone Width…幅
Side Shift…中心軸からの移動
貝をドラッグすると視点が変わります。
BendingやTwistingを0、Hightを小さくWidthを大きめにすると2枚貝に。
うまくやれば新種の貝が作れるかも?
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