2021年度 市川学園中学過去問【理科】大問1解説

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次の文章は、宮﨑駿・亀岡修『小説 天空の城ラピュタ<後編>』の一部です。舞台は19世紀後半のヨーロッパです。パズーという少年とシータという少女が、タイガーモス号という飛行船からワイヤーでつながれたグライダー状の凧に乗っています。二人はゴリアテという飛行船を警戒して、タイガーモス号よりも上空から見張りを始めたところです。なお、出題に際して、本文には表記を一部変えたところがあります。

その他の登場人物
ドーラ:タイガーモス号の船長
アンリ、シャルル、もぐらのじいさん:タイガーモス号の船員

シータは雲の上にある凧から、①彼方に夜明けの兆を見た。オレンジ色の光が少しずつ星々を飲み込みはじめている。
「パズー、夜明けよ。……でも変だわ、夜明けが〔 1 〕からくるなんて」
タイガーモス号は真東に進んでいるはずです。それともゴリアテとの遭遇のとき方向を失ったのか―—。
 パズーはその疑問をドーラに伝えた。
「えっ?北に向いているって?」
「ママ、コンパスはちゃんと東を指しているよ」
アンリは何度も計器盤をのぞき、
「間違いないよ」
珍しく確信を持って応えた。
「まさか……」
ドーラは眉間にしわを寄せ目を閉じ、心を落ち着けて船体の動きに全神経を集中させた。異常な感覚が足に伝わってきた。
「流されている……」
愕然としたドーラは、カッと目を見開き、唸り声を上げた。
「針路が狂っちまった」
ドーラにも読めなかった得体の知れない空気の流れが生じているらしい。おそらく凧は北に向き、船は東を向いたまま北に流されている。
「見て、あれを!」
受話器からシータの悲鳴に似た声が漏れた。
「どうしたんだい、ゴリアテかい?」
ドーラの呼び掛けにも返事がない。
「どうした、何があった!」
ドーラの叫びに、ようやくパズーの震える声が返ってきた。
②雲です
「なに、雲?」
<雲くらいで騒ぐな>
というには、あまりにも緊張した声だった。
「も、ものすごく大きな」
「こっちに近づいてくるわ!」
二人の声は、はっきりと恐怖を物語っている。
二人の眼前、急速に明るさを増しつつある空に、すさまじい雲のかたまりが幅数キロメートルに渡って沸き立っていた。頭上遥か、見上げるくらい盛り上がったその雲の頂は朝日を受け、見たこともない不気味な色に染まっている。
シータはそのかたまりに圧倒され、体を硬直させている。パズーも全身が粟立ち、目を逸らすこともできず、その雲を凝視した。
二人が「雲が寄ってくる」と思ったのも無理はない。しかし、本当には船の方が空の水脈(みお)に流されている。
タイガーモス号よりはるかに質量の軽い凧が、スーッと雲のかたまりに吸い寄せられた。パズーの背筋に戦慄が奔った。
「パズー、そいつは低気圧の中心だ。二人ともしっかり掴まっているんだよ。もう収容できないからね!」
パズーを励まし、次いで機関室に最大出力を命じたドーラは、
③船を風に立てな!面舵だ、早くしな!」
舵輪に取り付いているシャルルにハッパをかけた。シャルルは顔が血ぶくれるくらい力を籠めたが、舵輪はビクともしない。
「ママ、引きずり込まれる!」
いまや、はっきりと体で感じられるくらい、船は横向きに流されていた。主翼がぎしぎしと音を立てており、船体の布はビリビリと小刻みに震動し、プロペラが引き波にカラカラと空を切った。
「どんどん吸い寄せられます!」
パズーの悲鳴だ。
「踏ん張りな!」
ドーラもそれ以外、返す言葉がない。
「舵が、舵が動かねえ!」
「シャルル、いつものクソ力はどうしたんだい!」
「ウォー」
シャルルが吠えた。
「ドーラ、エンジンが焼けちまう!」
機関室でも、もぐらのじいさんが叫んでいた。
「じいさんの泣きごとなんざ聞きたかないね!なんとかしな!」
雲の上に出られれば、もっと状況がつかめるだろう。だが、ますますぶ厚くなる雲の中を④船は傾(かし)いだまま吸い寄せられている

(1)
下線部①について、日の出や日の入りの薄暗い(薄明るい)状態を薄明(はくめい)といい、
特に1等星が見える程度までの明るさを常用薄明といいます。
夜明け時の常用薄明について正しいものはどれですか。
ア:日の出前の90分間くらい
イ:日の出前の30分間くらい
ウ:日の出後の30分間くらい
エ:日の出後の90分間くらい

(2)
〔 1 〕に当てはまる方向はどれですか。
ア:右 イ:左 ウ:後ろ エ:正面 オ:上

(3)
下線部②について、この雲は高度10km程度にまで成長している積乱雲の一種です。
積乱雲の内部や周辺の説明として正しいものはどれですか。
ア:空気が集まってきているので、この雲は高気圧の中心付近にある。
イ:この雲の厚さはうすく、常に中心部には空洞がつくられる。
ウ:この雲の中や周辺では、上から見て左回りに吹いている。
エ:この雲の外側では、雷が発生しやすい。
オ:この雲の下では、風は強いが雨はあまり降らない。

(4)
(3)の積乱雲のとき、タイガーモス号は高度3000mを維持して飛行していました。
パズー達の乗った凧は、タイガーモス号の真上で100mほど高い位置を飛行していたとします。
パズーは、45°程度で雲を見上げたとき、この雲の頂上周辺を見ることができました。
パズーから雲までの距離はどのくらいになりますか。
ア:1~2km イ:3~5km ウ:7~10km エ:15~20km

(5)
下線部③について、船を立てるとは、水の流れなどを基準に、
船首を一定の方向に向けて固定することを意味します。
このときのタイガーモス号の状況について述べた、
次の文の〔 2 〕〔 3 〕に入る言葉の組み合わせとして、正しいものはどれですか。

タイガーモス号は〔 2 〕の風の中、東を向いており、
〔 3 〕に雲から離れようとしている。

(6)
下線部④について、このときのタイガーモス号周辺の様子として正しいものはどれですか。
ただし、タイガーモス号の向きや風向きは以下の通りとします。


@解説@
(1)イ
聞いた事のないワードが・・。
日の出後だと太陽がでてしまい、星が見えづらくなるので日の出前。
『1等星が見える程度の明るさ』だから、日の出に近いイが正答となる。

トリセツより。薄明かりにはどうやら3段階あるそうです。
市民薄明が常用薄明のことで、太陽の中心高度が地平線に対して-50分~-6度の範囲にあり、
照明なしでも
屋外で活動するのに足りる薄明りを指します
(分は角度の単位で、1分=1度の60分の1の大きさ)
マイナスがつくので太陽の中心が地平線より下にあるときから始まり、
太陽光が大気の屈折で地表に届くことで薄明になります。

(2)ア
ほぼ読解問題。
方位の情報が書かれてある文を探す。

『タイガーモス号は真東に進んでいるはずである』
コンパスもちゃんと東を指している。なのに、パズーがいる凧は北を向いている。
タイガーモス号は予定通り東に進んでいるが、凧は風を受けて北に変わってしまった。
北を向く凧の右側に夜明け(太陽)があらわれる。

(3)ウ

台風を思い浮かべるとやりやすい。台風は積乱雲の一種。
ア:台風は熱帯低気圧。×
イ:積乱雲は縦に長い。×
ウ:舞台はヨーロッパなので北半球。北半球では反時計回りに吹く。〇

日本気象協会より。厳密にいうと、上昇気流にのった空気は台風の上部で時計回りに吹く
選択肢で『この雲の中や周辺』と限定するのはこういうことだと思う。
エ:雲の中で氷の粒がこすれあって帯電。この静電気が積もりに積もって落雷が発生する。×
オ:豪雨。×

(4)ウ

凧は3.1km、雲頂(雲の頂上)が10km。
仰角(ぎょうかく;見上げる角度)が45°→直角二等辺三角形を作成。
等辺の長さは6.9km。「程度」とあるから、これに近い7~10km。

(5)エ
船体が北に流されているということは南寄りの風(南側から吹く風)。
雲は北側にあるから、船を南向きに動かして雲から離れようとしている。
(面舵は右に進路をとる。東の右側は南)

(6)イ

雲はタイガーモス号の北。
残るア・イの判定は、青枠の3つの矢印に注目する。
巨大なタイガーモス号を横向きに引っ張るほどの強い南風なのでイが適当である。

風は高気圧から低気圧に向かって吹くが、北半球ではコリオリの力で働いて、
低気圧では中心に向かって反時計回りに、高気圧では中心から時計回りに渦をまく。
高気圧の左側で南風が起こるので、北にある低気圧に引き寄せられやすい。

 

@コリオリの力@
『北半球の低気圧では中心に向かって反時計回りに、高気圧では中心から時計回りに渦をまく』
ということは、北半球では風は進行方向の右側に曲がる
これは地球の自転により、コリオリの力(転向力)という見かけの力が働くからである。
コリオリの力の説明ではキャッチボールの例えがよく使われる。

車の荷台に乗った2人がキャッチボールをする。
車が同じ方向に同じ時速20kmで進んでいるとすると、
人もボールも同一方向に時速20kmで動くのでキャッチボールは成功する
もし、どちらかの車の速度が時速20kmより速くなったり遅くなれば、
このキャッチボールは成功しない。

赤道にいるAが北にいるBに向かってボールを投げる。
地球の自転でAとBは右側に移動しているが、
赤道上にいるAの方がBよりも速い速度で動いている
Aが投げたボールもAと同じ速い速度で右に動く
すると、ボールは相対的に遅いBよりも右に動くので、右にカーブを描く。
これがコリオリの力である。見かけの力であり、特別な力が働いているわけではない。
南半球では左右が逆になるので、進行方向の左側に曲がる。

ちなみに、お風呂の栓を抜いたときの渦の方向が北半球と南半球で逆になる、
という話はデタラメである。
コリオリが働くにはA地点とB地点で相当程度の速度差があること、
言い換えれば、
緯度の差がそれなりに大きくなければ働かない。
渦潮程度でもさほど働かないので、ましてや浴槽レベルであれば限りなくゼロ。
渦の向きは容器の形状や水の出し方による。
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