問題PDF
Kさんは親と海にアジを釣りに行きました。アジだけでなくカワハギも釣ることができました。家に帰り、アジをじっくり観察してみました(図1)。小学校で飼育しているメダカより大きいので、①ひれのつき方がよく分かりました。
親と相談し、アジを開いて干物をつくってみることにしました。うろこをとり、水できれいに洗い流した後、図1のようにからだの右側を下にして置きました。肛門(図1のA)に包丁の刃先を入れ、酸素をとり入れるためのつくりである( 1 )の近く(図1のB)まで腹側を切り、はらわた(内臓)を取り出しました。
よく洗った後、図2のようにからだの左側を下にして置き、包丁が背骨の上を沿うように、刃先が背中側のからだの表面を貫通しないように気を付けて切りました(図2のX→Y)。その後、頭と尾の部分は切り落としました(図2の太線)。水で洗い、開かれたアジの両面に②全体がうっすら白くなるくらい塩をまぶし、1時間後にあらためてさっと水洗いし、キッチンペーパーで水をよくふき取り、ベランダに干しました。
カワハギは親にさばいてもらいました。きれいな白身の魚で、赤身のマグロとは対照的でした。Kさんが「赤身と白身は何が違うの?」と親に聞くと、「違いの一つは、赤身の魚は筋肉の中にミオグロビンとよばれる物質を多く含むこと。ミオグロビンは、血液成分の中の( 2 )に含まれるヘモグロビンと同じように酸素とくっつくことができる物質で、ヘモグロビンが運んできた酸素を筋肉内にたくわえるはたらきがあるんだよ。筋肉が縮むためには酸素が重要な役割を果たすんだけれど、ミオグロビンがたくさんあると筋肉内の酸素の濃度を維持することができるんだ。ミオグロビンがたくさんあるからといって筋肉の縮む力が強くなるわけではないけれどね」と教えてくれました。
さらに、カワハギの③肝臓は非常に大きいことが分かりました。肝臓といっしょに緑色をしていた( 3 )も取れました。親はKさんに「( 3 )は苦玉とも言って、肝臓でつくられた消化液がたくわえられているよ。これをつぶしてしまうと、すごく苦い液がもれて、食べるところについたら大変だから気をつけて!」と言いました。
問1
文中の( 1 )~( 3 )に入る最も適当な語句をそれぞれ答えなさい。
問2
下線部①について、アジにおいて胸びれ以外に対になっているひれを
図1のア~オからすべて選びなさい。ない場合は「なし」と答えなさい。
問3
次の図3は、ベランダに干したアジを、開いた側から見たときの輪郭を表したものです。
解答欄の図中に、「背骨がある部位」と「はらわたがあったおおよその部位」を
それぞれ記入方法にしたがい、描き入れなさい。
問4
下線部②について、次の(1)(2)に答えなさい。
(1)塩をまぶすとどのような現象がおこると考えられますか。
(2)(1)と同様の現象を利用した他の例を1つ答えなさい。
問5
筋肉では、ヘモグロビンとミオグロビンのどちらが酸素とくっつきやすいと考えられますか。
文を参考にして答えなさい。
問6
白身の魚と比べ、赤身の魚の泳ぐ能力にはどのような特徴があると考えられますか。
問7
下線部③について、肝臓には様々なはたらきがあります。
消化液をつくること以外で肝臓のはたらきを1つ答えなさい。
@解説@
問1:1―えら、2―赤血球、3―胆のう
1-魚類はエラ呼吸。
口から入れた水がエラを通過するときに溶けている酸素をかっさらう。
2-赤血球が赤いのはヘモグロビンが持つ色素。
3-やや難。
肝臓の近くにある緑色をしたもの。肝臓でつくられた苦い消化液を蓄えている。
⇒胆嚢(たんのう)。
胆汁は脂肪の消化を助ける消化液で、胆嚢ではなく肝臓で生成される。
嚢(のう)は袋という意味で、胆嚢で胆汁をたくわえて濃縮、
胆管を通じて十二指腸に排出される。
問2:エ
すべて選べのうえ、なしの場合もある(;∀;)
あえて『メダカより大きいので』との言及があるから、メダカのヒレを想起する。
メダカは胸ビレと腹ビレが左右で対なので、エが正答となる。
アジはメダカとちがって背ビレが2つあるのが厄介(´~`)
問3:下図参照
アジを開かせるという(σ・Д・)σ
よく観察していた子は有利だが、見ていなくても問題文をヒントに解ける。
A→Bに包丁を入れて、はらわたを取る。
背骨の上に沿うようにX→Yに刃先を移動させる。
アジの腹をパカっと開くので、真ん中がアジの背。
背骨は目の後ろあたりから尾びれに向かって途切れることなく伸びる。
目の位置は頭をカットした太線から見当をつけよう。
はらわたは頭側の下。片側のみにびっしり詰まっているわけではないので対に描く。
問4①:アジの体内にある水分が出てくる。
②:野菜を塩もみして脱水する。
*今年の麻布中にも出てました( ..)φ
大問3より。野菜の表面にある『特別な膜』とは半透膜のこと。
塩事業センターより。
セロハンのように、水は通すが食塩のような大きい粒は通さない膜を半透膜という。
濃度を一定にするために、水が半透膜を超えて濃度の高い塩水側へ移動する。
この移動を押し返してストップさせるために必要な圧力を浸透圧という。
細胞をおおう細胞膜は半透膜の一種。
アジの表皮についた塩が溶け、浸透圧でアジの水分が体外に出てくる。
ナメクジに塩をかけると縮むのも浸透圧による。
@生物の恒常性@
生物は体内環境が大きく変化すると死んでしまうので、
体内の状態を一定に保つ機能(恒常性;ホメオスタシス)が備わっている。
恒常性と浸透圧に関連してよくでてくる話が魚類の体液濃度の調節。
サントリーより。海水魚は周りにある海水の方が濃度が高いので、
アジに塩をかけたときのように、体内から水が出て水分不足におちいってしまう。
そのため、多量の海水を飲み込み、余分な塩類(えんるい)をエラから排出する。
水を外に出さないよう、腎臓では濃度の高い少量の尿をつくる。
反対に、淡水魚は体内のほうが濃度が高いので、水が入り込んで破裂する危険がある。
水は少しだけ飲み、塩類が出て行かないよう、濃度の薄い尿を大量につくって出している。
問5:ミオグロビン
ヘモグロビンが酸素を運んできて、筋肉の中にあるミオグロビンが酸素をキャッチする。
ヘモグロビンよりミオグロビンの方が結合しやすいからこそ、酸素の受け渡しが可能になる。
@酸素解離曲線@
センター試験(2010年度)より。高校生物で習う酸素解離曲線。
横軸は酸素濃度。縦軸は酸素と結合している割合。
酸素ヘモグロビンとは、酸素と結合しているヘモグロビンのこと。
酸素濃度が高くなるほど、酸素ヘモグロビンの割合は高くなる。
酸素濃度が低く、二酸化酸素濃度が高い各細胞の組織(酸素の需要地)では
ヘモグロビンが酸素を離して組織に供給することで酸素ヘモグロビンの割合は低くなる。
筋肉に含まれるミオグロビンはヘモグロビンよりも酸素とよくくっつき、
ヘモグロビンが運搬した酸素を筋肉に溜めることができる。
問6:長時間の遊泳に優れている。
*リード文の情報をまとめる。
筋肉を縮ませて動かすには、酸素が重要な役割を果たしている。
ミオグロビンがたくさんある赤身魚は、筋肉内の酸素の濃度を維持することができる。
しかし、『ミオグロビンがたくさんあるからといって筋肉の縮む力が強くなるわけではない』。
短距離走者と長距離走者は筋肉のつき方が違うというのをどこかで聞いたことはあると思う。
筋肉の瞬発力が高いわけではない。酸素濃度の維持が高いということは、赤身は長距離型。
赤身魚のマグロは広い外洋を泳ぐ回遊魚。
マグロは自力でエラブタを動かすのが難しいので、
口からエラに向けて絶えず水を流し込まないと呼吸ができない。
泳ぎ続けるには大量の酸素を要する。
問7:下記参照。
肝臓は横隔膜の下にある、最も大きい臓器。
人体の化学工場とも言われており、生命維持に必要な化学反応がいろいろ行われている。
以下は胆汁の分泌をのぞく代表的な働きの一例。
①血糖値の調節
血糖値が高くなるとグルコース(ブドウ糖)をグリコーゲンに変換して蓄え、
血糖値が低くなるとグリコーゲンをグルコースに分解して血液中の糖の濃度を保つ(恒常性)。
②タンパク質の合成。
有名どころはフィブリノーゲンとよばれる血液凝固因子。止血の話にでてくる。
③尿素の合成。
アミノ酸の分解で生じた有毒なアンモニアを比較的無害な尿素に変換する。
④解毒作用。
アルコールを分解して無害な物質に変換する。
難関中学(理科)解説ページに戻る
コメント