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次の文章は1909年にノーベル化学賞を受賞したドイツの化学者オストワルドが、はじめて化学を学ぶ子どもたちに向けて1903年に書いた著書「化学の学校」の一節です(ただし、読みやすいように一部を変えています)。先生と生徒の会話文をとおして、化学という学問はあらゆる物質の学問であり、化学を学ぶことは森の中を散歩するように楽しいことだと教えています。後の問いに答えなさい。
生徒 それではいったい物質とは何ですか。
先生 それは一言では言えない。では君が実際物質というものを知らないのか、
それともそれをうまく言えないのか、ひとつ試してみよう。これは何ですか。
生徒 砂糖だと思います。
先生 なぜそう思う?
生徒 そうですね。ビンの中の砂糖にそっくりだからです。ちょっとなめさせて下さい。
―あ、これは砂糖です。甘い味がします。
先生 まだそのほかに①砂糖を識別する方法を知っていますか。
生徒 はい、指につけるとベトベトします。これも実際ベトベトします。
先生 実際に君が何かしら物質を手に渡されて、それが砂糖かどうかと聞かれたときには、
いつもそういう方法で判定することができます。すなわちまず外観や味により、
またさらに粘着性によってそれを知るわけです。この識別のめじるしのことをその物の性質と呼びます。
わたしたちは砂糖をその性質によって知るのです。砂糖は一つの物質です。
すなわちわたしたちは物質をその性質によって認識するのです。
―ところで君は物質のもつすべての性質が物質の認識に役立つと思いますか。
生徒 そう思います。性質がわかっていれば―
先生 ではひとつみてみよう。砂糖にはただ一種しかないでしょうか?―そうではない。
氷砂糖というものを知っているでしょう。あの大きな塊になっている砂糖。
それから粉砂糖。あの白砂のような粉状のもの。どちらも砂糖です。
というのは氷砂糖を乳鉢の中で砕くと粉砂糖ができるからです。
生徒 あ、なるほど、両方とも同じものなんですね!
先生 両者は「同一の物質」砂糖です。しかしその性質のうち一つは変わってしまいました。
物体のもつ形も一つの性質です。これは勝手に変えることができます。
しかし物質は依然として変わらずにいます。また分量についても同様です。
たとえビンの中に砂糖がいっぱい入っていようが、あるいはほとんど空っぽであろうが、
その中にあるものはいつも砂糖です。すなわち形と分量とは物質を認識すべき性質とはならないのです。
―砂糖は温かいか、冷たいか?
生徒 わかりません。―どちらにでもなるんではありませんか!
先生 そうです。温かいとか冷たいとかは物質の認識に役立つ性質ではありません。
生徒 それはそうですね。考えてみると砂糖は大きくも小さくも、
温かくも冷たくも自由にできますね。
先生 そうですね。それでようやくはっきりしましたね。
物の性質の中には変えることのできないものがあります。砂糖が甘みをもつことや指にベトつくことは、
いつも砂糖に見られることがらです。しかしその大きさや、形や、その温度は変えることができます。
どんなものでも一定の物質は一定不変の性質をもっています。
そしてどんなものでもこの一定不変の性質をもっているものには、その物質の名前があたえられます。
このさい、その物質が温かくても冷たくても、大きくても小さくても、
またその他どんな②可変の性質をもっていようと、それは関係しないのです。
しばしば③物はその用途や形によってその物質とは異なった名前がつけられていますが、
そんな場合にもそれは一定の物質からできていると言います。
生徒 どうも全部はわかりません。
先生 これは何ですか。またあれは?
生徒 針とハサミです。
先生 それらは物質ですか?
生徒 よくわかりません。―どうも、物質じゃないようです。
先生 わかりにくいときには、いったいこの物は何からできているかと考えてみればよい。
するとたいがい物質の名前が頭にうかびます。針とハサミは何からできていますか。
生徒 鉄です。では鉄は物質ですか。
先生 そうです。鉄のひとかけらはやはり鉄です。たとえ大きくても小さくても、
冷たくても温かくても鉄にちがいありません。
生徒 それならば紙も物質であるはずです。それは本も紙からできていますから。
木質も机を形成しているので物質です。そしてレンガも物質です。
暖炉はレンガからできていますから。
先生 最初の二例は正しい。でも最後のはいけない。レンガは砕いてもなおレンガですか?そうではない。
レンガという名前はある形をそなえたものにあたえられているもので物質ではあり得ない。
ところでレンガは何から作りますか。
生徒 粘土から。
先生 粘土は物質ですか。
生徒 そうです―いや―やはりそうです。というのは粘土を砕いてもやはり粘土のままでいます。
先生 まったくその通り。④そのやり方で、当分のうちは疑問が起きても用が足ります。
すなわち、まず何から物ができているかと考え、そして答えを得たならば、
さらに砕いた場合にもそのままでいるかどうかを考える。
そのとき何ら変わりがなければそれが物質なのです。
オストワルド著/都築洋次郎 訳『化学の学校』上(岩波書店)
問1
下線部①に関連して、別々の試験管にとった食塩水と炭酸水を識別するためにある方法で実験したところ、
次のような結果になりました。ある方法とはどんな方法ですか。5文字以内で答えなさい。
結果
「片方の試験管の中には白い粒だけが残ったが、もう片方は何も残らず空になった」
問2
下線部②について、ここで述べられている「可変の性質」の例として適当なものを、
次のなかからすべて選びなさい。
ア:20℃の水100cm3に溶けるミョウバンの最大の重さ
イ:氷ができはじめる温度
ウ:砕いた氷砂糖のひとかけらの体積
エ:アンモニアのつんとするにおい
オ:窓ガラスの表面温度
問3
下線部③の例として「ドライアイス」があります。ドライアイスを温めると気体に変わります。
この気体は、石灰水を白くにごらせる性質があります。
「ドライアイス」を形成している物質の名前を答えなさい。
問4
下線部④のやり方によって物質と考えられるものを次のなかからすべて選びなさい。
ア:ガラス イ:ペットボトル ウ:割りばし エ:コップ オ:銀
問5
この文章に登場する「先生」は、物質かどうか決めたいとき、
まずどうすればいいと言っていますか。最も適当なものを選びなさい。
ア:その物をどのように利用しているかを考える。
イ:その物が何からできているかを考える。
ウ:その物がどこでできたかを考える。
エ:その物がいつできたかを考える。
問6
この文章に登場する「先生」は、化学であつかう「物質」は何をもっていると言っていますか。
文章中から7文字で抜き出しなさい。
@解説@
*設問レベルはどれも易ですが、問題文が面白かったので取り上げました。
問1:加熱する
炭酸水には気体の二酸化炭素が溶けている。
加熱して水を飛ばすと、炭酸水は何も残らないが食塩水は食塩が残る。
なお、無機物である食塩は焦げない。
問2:ウ・オ
大きさや形、温度といった可変の例を選ぶ。
ア:ミョウバンの溶解度。溶解度は水100cm3(100g)に対して何g溶けるかの割合。
これは物質によって決まっている性質で変えられない。
再結晶は物質ごとの溶解度の差を利用して物質を分離する。
イ:氷ができはじめる温度→水の凝固点
1気圧のもとで食塩などを混ぜなければ0℃で不変。
ウ:体積(大きさ)は変えられる。砕く前も後も砂糖。
エ:刺激臭はアンモニアの性質。つんとしなかったら、それはアンモニアではない。
オ:温度だから自由に変えられる。
問3:二酸化炭素
ドライアイスは二酸化炭素が固体に状態変化した物質。
二酸化炭素は石灰水を白く濁らせる。
固体⇒気体の状態変化は昇華、気体⇒固体は凝華という。
@状態図@
液体の二酸化炭素も存在する。
固体・液体・気体の状態変化は温度と圧力に依存する。
どのように変化するかまとめたグラフを状態図という。
上図は二酸化炭素の状態図で、1気圧のラインは固体と気体が接しているので液体にならない。
圧力をあげて特定の温度にすると、液体の二酸化炭素がおがめる。
ちなみに、三重点では固体・液体・気体が共存する。
超臨界流体は液体と気体の性質をあわせもつという謎の状態らしい(;´・ω・)?
問4:ア・オ
ア:ガラスを砕いてもガラス。
イ:ペットボトルは飲み物を飲む容器、つまり用途に応じて与えられた名。
こなごなに砕いたら破片は、もはやペットボトルとはいえない。
物質名はプラスチックの一種であるPET(ポリエチレンテレフタラート)
ウ:さすがに割り箸を物質と考える生徒はいないだろうよ(; ゚Д゚)
細かくしたらは割り箸ではなく木屑。
農林水産省より。セルロースだけ覚えておこう。
植物細胞の細胞壁は主にセルロースでできている。
エ:ペットボトルと一緒。コップも物質名ではなく、人間の用途による。
オ:銀は銀。元素記号はAg
@ガラスの正体@
ガラスは知っているけど、ガラスが何なのかいまいちわかりくい。
ガラスの主な原料はケイ砂とよばれる砂。
ケイ砂の主成分は二酸化ケイ素(SiO2)で、硬くて融点が高い。
ガラスは用途に応じていくつか種類がある。
二酸化ケイ素のみを高温処理して冷やすと、光ファイバーに利用される石英ガラス。
加熱前に炭酸ナトリウムや石灰石を混ぜるとソーダ石灰ガラス(一般的なガラス)。
硬いガラスもフッ化水素酸というものに浸すと溶けてしまう。
ガラス瓶では保存ができないので、代わりにポリエチレンの容器に入れておく。
ちなみに、このフッ化水素酸。スプーン1杯分で死亡例があるほどのヤバイ劇薬らしい(( ;゚д゚))
問5:イ
針とハサミがでてきたあたり。
『いったいこの物は何からできているかと考えてみればよい』
とモロ出しに書かれてある。
問6:一定不変の性質
化学は物質を研究する学問。
おのおのの物質がもつ一定不変の性質を頼りに、
我々はそれが一体何の物質なのか認識することができる。
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コメント
ありがとうございます
そっくりそのまま写させてもらいました